個人情報の保護(プライバシーマーク)

近時,企業が入手・管理する膨大な顧客情報は企業にとって最重要なビッグデータとなっています。

他方で,私たち一般人の個人情報は,多くの企業に把握されている可能性があり,厳重か否かに関わらず管理されているのです。

たとえば,私が名古屋で弁護士をやっているという情報もどこかの企業の顧客データベース上では管理されていることでしょう。

インターネットで企業を検索すると,プライバシーポリシー,個人情報保護方針などといった言葉を目にすることも多いことでしょう。

これは,各企業が,取得した顧客等の個人情報をどのような目的でどのように扱うのかが書かれているものです。

さらにプライバシーマークというものを見たことはあるでしょうか。

プライバシーマークとは,個人情報保護に関して一定の要件を満たした事業者に対して,一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)により使用を認められる登録商標のことをいいます。

プライバシーマークを取得することが義務付けられているものではありませんが,プライバシーマークの取得には個人情報保護に関する審査があるため,プライバシーマーク取得企業は,この審査に通っているということで個人情報の保護について一定の信頼が与えられます。

プライバシーマークを取得しているメリットの1つとして,取引先企業や一般の顧客からの信頼が向上するということが挙げられます。

やはり,個人情報について杜撰な管理をしている企業よりも適切な管理をしているとの認証を与えられた企業の方が,信頼されやすいといえます。

また,他のメリットとして,プライバシーマークを取得していることを入札条件や取引先選定条件としている場合にこれをクリアすることができる,社員が個人情報の取扱いについて意識を向上することができる,法令に遵守した社内の体制を確立することができることなどが挙げられます。

一方で,プライバシーマークのデメリットとしては,申請費用,審査費用,マーク使用料など費用がかかること,プライバシーマーク取得をコンサルタントに依頼した場合にはさらにコンサルティング費用がかかることが挙げられます。

さらに,取得までに一定の作業が必要になること,取得後も定期的に見直しを行わなければいけないこともデメリットとして考えられるものとなります。

とはいえ,取得しておけば,個人情報の取扱いについて他の企業よりも優れているとの印象を与えることができ,差別化を図ることができるものとなります。

逆に言うと,プライバシーマークを取得していないと他の企業に比べて個人情報保護に注力していないと見なされる恐れもあるものであり,この点からしてもプライバシーマーク取得は企業にとって重要なものといえるでしょう。

本日のブログは以上です。

ゴールデンウイーク

こんにちは,弁護士の井川です。

今年のゴールデンウイークは10連休とあり,海外に行かれるという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

一方で海外ではなく,国内でのんびりとゴールデンウイークを過ごされるという方もいらっしゃるかと思います。

私は,先日車を運転して滋賀県にある琵琶湖に行ってきました。

琵琶湖は,皆さまご存知のとおり,日本で一番大きな湖ですね。

対岸が見えず,まるで海のように感じるのは,毎回行っても変わりありません。

今回の旅では,琵琶湖のほかに,彦根城に行ってきました。

彦根城は,国宝5城の1つに数えられる立派なお城です。

現在,日本には現存12天守と呼ばれる12のお城があり,そのうちの5つが国宝とされています。

彦根城のほかには,姫路城,松本城,犬山城,松江城の4城が国宝とされています。

名古屋に在住の方であれば,犬山城はもちろんご存知でしょう。

また,名古屋からであれば,彦根城,松本城は比較的アクセスしやすいかもしれません。

さて,私の旅はと言いますと,彦根城近くの駐車場に車を止めてお城の近くまで散策しようと向かったのですが,そこはやはりゴールデンウイークということで非常に多くの車で駐車場に入るまでにすでに渋滞ができていました。

あまりの渋滞に気が滅入ってしまい,遠くから彦根城を拝んだのみで,その場を退散することにいたしました

彦根城を(遠くから)見終えたあとは,古き良き街並みが残る城下町の通りで名産である近江牛のランチをいただきました。

ほどよく霜降りの入った贅沢なお肉は,噛めば噛むほどに旨味が口の中に広がり,遠くまでドライブで来たかいがあったなと思わせてくれる一品でした。

帰りには,近江牛の肉寿司,近江牛のコロッケを買い食いして,お財布には少々厳しいものでしたが,存分に楽しんだドライブ旅となりました

さて,車でドライブ旅をしていると思うのですが,ゴールデンウイーク中には,車で観光地に出かける方もたくさんいらっしゃるかと思います。

その中で,どうしても発生してしまうものが,交通事故です。

ゴールデンウイーク中にも,交通事故のニュースはよく見かけました。

交通事故というものは,本当に突然の出来事であり,自分がどれだけ安全を心掛けていたとしても避けられない場合もあります。

交通事故の被害に遭われた方の苦しみというものは,非常に大きいものであることを日常の弁護士業務で知っております。

私が所属する弁護士法人心では,そのような苦しみを感じる方へ少しでも手助けをすることができるよう,日々交通事故案件に関する研鑽を積んでおります。

交通事故に遭われ,お困りの際には,ぜひ一度弁護士法人心へご相談ください。

本日のブログは以上です。

保険医療機関・保険医について

こんにちは,名古屋の弁護士の井川です。

今回のブログでは,皆さん当たり前のように利用しているため,意外と詳しくは知らない病院や医師についてお話します。

まず,皆さんが健康保険を使用して病院や診療所で治療などを受ける場合,基本的には健康保険法等の規定で規定されている療養の給付を行う病院・診療所で治療を受けており,これらの病院・診療所は保険医療機関と呼ばれています。

日本に存在する全ての病院・診療所が保険医療機関というわけではありません。

保険医療機関の指定は,病院・診療所の開設者が,自由意思に基づいて申請することにより,厚生労働大臣が行うと健康保険法第65条に定められています。

また,そのような保険医療機関である病院・診療所における診察や治療は,保険医として登録されている医師が行っています。

医師は,医師国家試験に合格し,医師免許を受けることにより自動的に保険医として登録されるわけではなく,保険診療を担当したいという医師の自らの意思により,勤務先の保険医療機関の所在地(勤務していない場合には住所地)を管轄する地方厚生(支)局長へ申請する必要があります。

保険医療機関である病院・診療所,保険医は,保険医療機関及び保健医療養担当規則という規則を遵守する必要があります。

この保険医療機関及び保険医療養担当規則とは,健康保険法等において保険診療を行ううえで保険医療機関と保険医が遵守すべき事項として定められた厚生労働省令であり,療養担当規則や療担とも呼ばれています。

厚生労働省保険局医療課医療指導監査室が平成30年に出している「保険診療の理解のために」の中では,保険診療として診療報酬が支払われるための条件の一つとして療養担当規則の規定を遵守することが定められており,保険医療機関,保険医にとって遵守すべき重要な規則となっています。

この療養担当規則の一部を紹介します。

療養担当規則第2条の4の2では,保険医療機関が患者に対して一部負担金の額に応じて収益業務に係る物品の対価の額を値引きする行為や事業者又はその従業員に対して,患者を紹介する対価として金品を提供する行為等を禁止しています。

すなわち,健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益の提供により自己の保険医療機関で診療を受けるよう誘引してはならないのです。

紹介の対価を支払うことなどは一般企業では日常的に行われているものともいえますが,保険事業の健全な運営を保つため,保険医療機関等がこれらの誘引行為を行うことは禁止されているのです。

療養担当規則については,今後のブログでも紹介をしていこうと思います。

本日のブログは以上となります。

 

平成の終わりに

こんばんは,弁護士の井川です。

平成31年の4月1日に,新元号が発表されました。

新元号は「令和」というそうですね。

私は,昭和の生まれですが,物心ついたときにはすでに平成の時代に入っており,人生のほとんどは平成時代でした。

平成といえば,みなさん当然「へいせい」と読みますよね。

もっとも,私の地元には,平成と書いて「へなり」と読む地域があります。

平成(へなり)にある道の駅には,平成が終わるこの4月,非常に多くの人たちが訪れているようです。

平成(へいせい)が終わってしまう寂しさもあるのでしょう,普段はそんなに人が来ることもない平成(へなり)の道の駅が現在は混雑しているようです。

さて,平成のように,一般的には「へいせい」と呼ばれている漢字が別の読み方をされるということは法律の世界でもあります。

たとえば,遺言という漢字。

遺言は,遺言書などで使用される言葉で,相続の分野で頻繁に耳にする言葉です。

皆さんも何度も聞いたことがある言葉だと思います。

この遺言という言葉,一般的には「ゆいごん」と言われます。

もっとも,法律の世界では,遺言という言葉を「いごん」と発して使用されます。

さきの遺言書も一般的には「ゆいごんしょ」と言われるのに対し,法律の世界では「いごんしょ」と言われます。

初めて法律相談に来る方にとっては,弁護士が「いごん」「いごんしょ」と言っていると,文脈で遺言,遺言書のことを言っていることは何となくわかるけれど,話がしっくりとこないかもしれません。

中には,相談にくる方に分かりやすいように「ゆいごん」「ゆいごんしょ」と一般的な発音に置き換えて説明してくれる弁護士もいます。

一方で,発音自体はあまり気にせず「いごん」「いごんしょ」として話をする弁護士もいらっしゃいます。

もっとも,そのような場合でも,法律の世界ではこのように発しますが,話している内容は相談者の方が思う遺言,遺言書のことですよ,と前置きをしたうえで説明をする弁護士が多いのではないでしょうか。

私が所属する弁護士法人心では,相談に来てくださるお客様のことを第一に考え,もっとも分かりやすいように「いごん」「いごんしょ」ではなく,「ゆいごん」「ゆいごんしょ」と発音することを心がけています。

普段から事務所内でも「ゆいごん」「ゆいごんしょ」と発音することで,常にお客様の視点で業務を行うということを意識しております。

弁護士に相談したいが,敷居が高く感じてなかなか相談に行けないという方にも親身になって相談に乗らせていただきます。

名古屋駅からすぐのところに事務所がありますので,電車でのお越しにも最適です。

法律問題でお困りの際にはぜひ一度弁護士法人心へご相談ください。

本日のブログは以上です。

 

弁護士事務所のスタッフ

こんにちは,弁護士の井川です。

4月に入り,多くの企業では,新入社員が入社していることでしょう。

企業によって求める人材や企業にマッチする人材はそれぞれであり,様々な入社試験,入社面接等をクリアしての入社になるかと思います。

これから社会の波に揉まれることもあるかと思いますが,無理をせず,頑張ってください。

さて,私が所属する弁護士法人心でも,4月から新卒で入所するスタッフさんたちがいます。

一般的に弁護士事務所と聞くと,すべて弁護士が取り仕切っていると思われることも多いですが,どの事務所もスタッフさんの活躍なくしては成り立ちません。

弁護士の業務というのは,お客様との相談,打ち合わせ,裁判,相手方との交渉など非常に多岐にわたります。

そのような中で,弁護士が真に依頼者のために業務をこなすことができるよう支えてくれているのがスタッフの皆さんなのです。

そのため,弁護士事務所では,弁護士の採用も重要ですが,それと同等あるいはそれ以上にスタッフさんの採用が重要なものとなります。

どの企業でも,優秀な人材,企業理念に沿う人材を求め,就活イベントに参加することがあるかと思いますが,当法人も同様に就活イベントに参加しております。

私も名古屋で開催された就活イベントに参加した経験がありますが,そこでは弁護士事務所に興味を持ってくれている就活生が多いことに驚いた記憶があります。

さて,弁護士事務所のスタッフさんがどのような仕事をしているのか興味を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

弁護士事務所のスタッフさんの仕事として,弁護士の秘書を務めたり,お客様の対応を行ったりすることがあります。

とくに秘書業務は,弁護士が業務を遂行していくうえで必要不可欠な業務であり,弁護士の多くは,秘書を非常に頼りにしているのではないでしょうか。

また,お客様対応では,たとえば電話で相談の受付をするということがあります。

一般的に敷居が高いと感じられる弁護士事務所に初めて電話をして相談の予約をしようとするお客様にとって,電話に出た相手がどのような態度で接してくれるかということは,相談をするかどうか決めるにあたって非常に重要なポイントの一つになるかと思います。

弁護士法人心では,お客様に不安なく相談予約をしていただくためにも,言葉遣いや間の置き方など常にお客様の視点に立って電話での話を進めることを心掛けています。

私たちにとっても頼りになる弁護士法人心のスタッフさんが,お客様に親身に寄り添い気持ちよく弁護士に相談ができるよう対応させていただきます。

法律問題でお困りの際には,ぜひ弁護士法人心へご相談ください。

本日のブログは以上です。

 

就職活動

2月に入り,各方面で就職活動も本格化してきたのではないでしょうか。

就職活動と聞くと,履歴書を書いたり面接の練習をしたりといったことが一般的でしょうか。

大学生のころ,私はすでに弁護士を目指していましたので,就職活動というよりは,ロースクールに合格するための勉強をしていた記憶があります。

ただ,就職活動をしている友人も多くいましたので,その友人たちと一緒に企業の分析や自己紹介,他己紹介などを日々行っていたのは今でもいい思い出の一つです。

自分自身で自分自身のことを分析するとなると,なかなか難しいものですが,友人に聞いてみると自分がどんな人間なのかを指摘してくれて,それが案外しっくりくるというか,やはり大学時代を通じて一番近くで生活をともにしているだけあって,お互いのことをよく分かっているものだなと感じることも多々ありました。

また,就職活動中は,常にいい結果だけを得られるわけではないので,希望する職種になかなか採用が決まらず落ち込んでいる友人を見かけることもありましたが,そこを支えてあげられるのもまた友人の役割であって,一緒に美味しいご飯を食べ美味しいお酒を飲んで将来を語り合ったものです。

私の周りで就職活動を頑張っていた友人たちももう社会人として8年目になるのでしょうか,月日は早いものだと改めて感じさせられます。

これから就職活動を始める皆さんは,何から取り組めばいいのか,面接でどんなことを言えばいいのかなど色々な不安や悩みを抱いていることでしょう。

同じく就職活動を始める周りの人たちもきっと同じ不安や悩みを抱えているはずなので,一人で考え込まず,友人と話し合ってみるのも就職活動を円滑に行う一つの方法かもしれません。

皆さんが,自分の希望する環境へ就職できることを願っています。

もっとも,就職はゴールではありません。私が大学生のころにこの言葉を聞いてもあまりピンと来なかったでしょう。やはりその時代にはそれが全てだったとは思うのです。

ただ,社会に出て,仕事に励み,友人と親交を深め,また,家族ができたりすれば,やはり就職がゴールではないのだと気づくことでしょう。

人生には本当にいろいろなことがあります。

就職はその中のたった一つの事象にすぎません。

私の友人たちの中にも,同じ会社で勤務している人もいれば,新しい環境でバリバリ仕事をしている人もいます。本当に様々です。

就職活動を行うなかで,落ち込むこともあるでしょう。しかし,そんな時間はもったいない。気楽にと無責任なことは言えませんが,気持ちを切り替えて次に取り組むことはとても重要なことだと思います。

そして,あなたの気持ちを切り替えさせてくれる人たちは,すでにあなたの周りにいるはずです。

ぜひ,就職活動頑張ってください。

私の勤務する弁護士法人心も名古屋で就職説明会を行っています。

興味のある方はぜひ一度話を聞きに来ていただければと思います。

本日のブログは以上です。

 

医師法17条③

前回につづき,医師法17条の医業の意義についてのブログです。
前回紹介した高等裁判所の判決では,医師法17条の医業の意義について,以下のように判示しています。
(1)医師法17条は,「医師でなければ,医業をなしてはならない。」と規定し,これに違反した者は処罰される。本条は,医師でない者の医業を禁止したものであり,その結果,医師は医業を独占して行うことができることとなる。
ここでいう医業の概念について,医師法は全く規定しておらず,その理由としては,医業の具体的内容が,医学の進歩に伴い変化するものであるから,定義的規定を置くことが困難であり,また妥当でないということが指摘されている。そうすると,「医業とは,医行為を業として行うことである」とした上で,医師法の立法目的等により,医業の内容や限界を見極めながら,医行為を合理的に解釈するのが相当である。
医師法17条の医業の内容である医行為の意義について,「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」という要件,言い換えれば,「医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」という要件(以下「保健衛生上の危険性要件」ということがある。)が必要であることは,検察官と弁護人との間で解釈の相違はなく,原判決も同様に考えており,当裁判所にも異論のないところである。
争いがあるのは,上記要件のほか,上記行為の前提ないし枠組みとして,「医療及び保健指導に属する行為」,すなわち弁護人の主張する「医療関連性」という要件が別途,必要であるか否かである。
この点,従来の学説は,医行為を広義と狭義の2つに分け,広義の医行為とは,医療目的(医師法1条に定められた医師の職分からすれば,「医療及び保健指導の目的」とするのが正確である。)の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるものとした上,疾病の治療・予防,出産の際の処置,あん摩,マッサージ,はり,きゅうなど医療目的に適う行為がここに含まれることになり,医師は当然にこれらの行為を業として行うことが認められるが,医師以外にも特定の行為についてその資格を有する者が行うことを認めるものも含まれると解し,他方,医師法17条により医師以外の者が業として行うことが禁じられる狭義の医行為とは,広義の医行為の中で,医師が医学的知識と技能を用いて行うのでなければ人体に危険を生ずるおそれのある行為であり,診療行為に限らず,輸血用の血液の採取,予防接種など医師が行うのでなければ,危険を生ずるおそれのある行為が含まれると解していた。弁護人の主張する医療関連性の要件は,結局,従来の学説が狭義の医行為について「広義の医行為の中で」という枠組みを設定していたのと同趣旨に帰着すると理解される。これに対し,検察官や原判決は,その後の学説が明示している定義や厚生労働省による行政解釈と同様,医業の内容である医行為は,保健衛生上の危険性要件があれば足り,「広義の医行為の中で」という枠組み,言い換えれば,医療関連性という要件は不要であると解しているのである。
当裁判所は,医業の内容である医行為については,保健衛生上の危険性要件のみならず,当該行為の前提ないし枠組みとなる要件として,弁護人が主張するように,医療及び保健指導に属する行為であること(医療関連性があること),従来の学説にならった言い方をすれば,医療及び保健指導の目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるものであることが必要であると解する。その理由は,以下のとおりである。
(2)医師法は,医療関係者の中心である医師の身分・資格や業務等に関する規制を行う法律であるところ,同法1条は,医師の職分として,「医師は,医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」と規定している。すなわち,医師法は,「医療及び保健指導」という職分を医師に担わせ,医師が業務としてそのような職分を十分に果たすことにより,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保することを目的としているのである。この目的を達成するため,医師法は,臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して,医師として具有すべき知識及び技能について医師国家試験を行い,免許制度等を設けて,医師に高度の医学的知識及び技能を要求するとともに,医師以外の無資格者による医業を禁止している。医師の免許制度等及び医業独占は,いずれも,上記の目的に副うよう,国民に提供される医療及び保健指導の質を高度のものに維持することを目指しているというべきである。
以上のような医師法の構造に照らすと,医師法17条が医師以外の者の医業を禁止し,医業独占を規定している根拠は,もとより無資格者が医業を行うことは国民の生命・健康にとって危険であるからであるが,その大きな前提として,同条は,医業独占による公共的な医師の業務の保護を通じて,国民の生命・健康を保護するものである,言い換えれば,医師が行い得る医療及び保健指導に属する行為を無資格者が行うことによって生ずる国民の生命・健康への危険に着目し,その発生を防止しようとするものである,と理解するのが,医師法の素直な解釈であると思われる。そうすると,医師法17条は,生命・健康に対して一定程度以上の危険性のある行為について,高度な専門的知識・技能を有する者に委ねることを担保し,医療及び保健指導に伴う生命・健康に対する危険を防止することを目的としているとする所論の指摘は,正当である。したがって,医師は医療及び保健指導を掌るものである以上,保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であっても,医療及び保健指導と関連性を有しない行為は,そもそも医師法による規制,処罰の対象の外に位置づけられるというべきである。

高等裁判所は,原審と異なり,医業の意義について,医療及び保健指導との関連性を必要としたのです。
この裁判は,検察側から上告がなされており,最高裁判所がどのような判断を下すのか,医療関係法務に携わる弁護士にとって注目される裁判の一つと言えるでしょう。
本日のブログは以上です。

医師法17条②

前回のブログの続きです。医師法17条についての高等裁判所の判断を紹介しています。

「医行為」に関する最高裁の判例(最高裁昭和30年5月24日第3小法廷判決(刑集9巻7号1093頁),同昭和48年9月27日第1小法廷決定(刑集27巻8号1403頁),同平成9年9月30日第1小法廷決定(刑集51巻8号671頁))について,弁護人が,これらの判例によれば,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防を目的」とすることが求められていると主張するのに対し,原判決は,上記各判例の事案は,いずれも被告人が疾病の治療ないし予防の目的で行った行為の医行為性が問題となったもので,医行為の要件として上記目的が必要か否かは争点となっておらず,上記各判例はこの点についての判断を示したものではないから,本件において,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防の目的」が不要であると解しても,最高裁の判例に反しない旨説示している。
ウ 次いで,原判決は,本件行為の医行為該当性について,被告人が行った施術方法は,タトゥーマシンと呼ばれる施術用具を用い,先端に色素を付けた針を連続的に多数回皮膚内の真皮部分まで突き刺すことで,色素を真皮内に注入し定着させるといういわゆる入れ墨を施すことであり,このような入れ墨は,必然的に皮膚表面の角層のバリア機能を損ない,真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため,細菌やウイルス等が侵入しやすくなり,また,被施術者が様々な皮膚障害等を引き起こす危険性を有しているとして,本件行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることは明らかであると判断した上,入れ墨の施術に当たり,その危険性を十分に理解し,適切な判断や対応を行うためには,医学的知識及び技能が必要不可欠である,よって,本件行為は,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であるから,「医行為」に当たるというべきであるとの判断を示している。
そして,〔1〕入れ墨の施術によって障害が生じた場合に医師が治療を行えば足り,入れ墨の施術そのものを医師が行う必要はない,〔2〕被告人が使用していた色素の安全性に問題はなく,入れ墨の施術の際には施術用具や施術場所の衛生管理に努めていたから,本件行為によって保健衛生上の危害が生ずる危険性はなかった,という弁護人の主張に対し,原判決は,入れ墨の施術に伴う危険性や,施術者に求められる医学的知識及び技能の内容に照らせば,上記〔1〕の主張は採用できないし,医師法17条が防止しようとする保健衛生上の危害は抽象的危険で足りることから,弁護人が上記〔2〕で主張する事情は前記判断を左右しないとして,弁護人の主張を排斥している。

このように原審は,医業の意義について,弁護士が主張する医療関連性を不要とし,医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為で足りると判断しています。
高等裁判所では,この原審の判断が争われ,覆されたのです。
高等裁判所の詳しい判示内容は次回紹介します。

医師法17条①

平成30年11月14日に,医師法17条の医業の解釈についての高等裁判所の判断がでました。
今回はこの判決について3回にわけてご紹介します。
この裁判は,被告人が,医師でないのに,業としてタトゥーショップにおいて針を取り付けた施術用具を用いて皮膚に色素を注入する医行為を行い,もって医業をなしたものとして,医師法17条違反の罪に問われたものです。
原審では,被告人の行為が医師法17条の医業に該当するとして,被告人は有罪とされていました。

原審の判断に対しては不当であると考える弁護士も複数いました。
そして,高等裁判所は,原審のこの判断を覆し,被告人を無罪としたのです。
以下,高等裁判所の判断を抜粋します。
まず,高等裁判所は,原審の判断の概要として以下のとおり述べます。
原判決は,本件の争点を,〔1〕針を取り付けた施術用具を用いて人の皮膚に色素を注入する行為(以下「本件行為」という。)が医師法17条の「医業」の内容となる医行為に当たるか否か,〔2〕医師法17条が憲法に違反するか否か,〔3〕本件行為に実質的違法性があるか否か,であるとして,後記のとおり,〔1〕については,本件行為は医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に該当する,〔2〕医師法17条は憲法31条に違反するものではなく,また,本件行為に医師法17条を適用することは憲法22条1項,21条1項,13条のいずれにも違反しない,〔3〕本件行為には実質的違法性が認められるとの判断を示し,本件公訴事実どおりに罪となるべき事実を認定した上,本件行為に医師法31条1項1号,17条を適用して被告人を罰金15万円に処したものである。
(1)本件行為の医行為該当性に関する原判決の判断要旨
ア 原判決は,「医行為」の意義について,医師法17条は,医師の資格のない者が業として医行為を行うこと(医業)を禁止しているところ,これは,無資格者に医業を自由に行わせると保健衛生上の危害を生ずるおそれがあることから,これを禁止し,医学的な知識及び技能を習得して医師免許を得た者に医業を独占させることを通じて,国民の保健衛生上の危害を防止することを目的とした規定であるとし,同条の「医業」の内容である医行為とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべきである,と説示する。
イ そして,原判決は,医師法17条及び同法1条の趣旨や法体系から,「医行為」とは,〔1〕医療及び保健指導に属する行為の中で(医療関連性),〔2〕医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべきであるという弁護人の主張に対し,その主張によれば,医療及び保健指導に属する行為ではないが,医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為(美容整形外科手術等)を医師以外の者が行うことが可能となり,このような解釈が医師法17条の趣旨に適うものとは考えられないし,弁護人の主張は,法体系についての独自の理解を前提とするものであるとして,弁護人の主張を排斥している。

続きは次回のブログでご紹介します。

景品表示法の優良誤認表示・有利誤認表示

景品表示法5条は,「著しく優良であると示す表示」(1号,優良誤認表示)や「著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(2号,有利誤認表示)をすることを禁止しています。
禁止される表示は,実際の商品・役務の内容・取引条件よりも著しく優良または著しく有利であると一般消費者に誤認される表示です。
これは,景品表示法の不当表示規制の趣旨が,表示事業者と一般消費者との間に商品・役務の内容・取引条件についての情報や知識に大きな格差がある蓋然性が高く,表示対象商品・役務を選択する際に事業者による表示を主な手がかりとすると考えられる一般消費者が適正な選択を行えるよう,適正な表示を確保するという点にあることに基づきます。
景品表示法が,一般消費者に誤認される表示を行うことを禁止しているため,事業者が一般消費者に向けて商品・役務について示す表示が,景品表示法上の不当表示規制の対象となります。
優良誤認表示,有利誤認表示,いずれもおおむね以下のパターンに分けられます。
優良誤認表示
実際の商品・役務の内容よりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示
競業事業者の商品・役務の内容よりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示
有利誤認表示
実際の商品・役務の取引条件よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
競業事業者の商品・役務の取引条件よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
たとえば,一般消費者が実際よりも「有利」であると認識し取引に誘引される表示の例としては,価格等を事実より得であるかのように示す表示の他,価格等そのものは事実であるものの当該価格等が特別な期間や特別の者だけに適用されるかのように示す表示も挙げられます。
ずっと同一価格で販売しているにも関わらず,今だけ○○円,などと表示をして販売することは,一般消費者が実際よりも「有利」であると認識し取引に誘引される表示の例と言えるでしょう。

実際に私が勤務している名古屋でも今だけ○○円としているお店を見かけることがあります。
今だけ期間限定で割引されるという表示は,いつかは対象商品・役務を利用してみたいと考えている一般消費者に一歩を踏み出させる契機となるものであり,表示と実際の相違は,一般消費者による商品・役務の選択に影響を与えるので,「著しく」有利であると誤認される表示であると判断されやすいでしょう。
近年,このような表示に対して消費者庁が措置命令を複数行っているということもあり,特に注意が必要と言えるでしょう。

医師法第17条の「医業」

医師法17条は,「医師でなければ,医業をなしてはならない」と規定しています。

ここでいう「医業」とは一体なんでしょうか。

平成17年7月26日医政発第0726005号は,「医業」とは,当該行為を行うに当たり,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を,反復継続する意思をもって行うことであると解しています。

また,医行為の該当性について,大阪地裁平成29年9月27日判決は,医師法17条の「医業」については,一般に「医行為を業として行うこと」と解されている。医行為の意義が問題となるが,学説上の通説は,「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」と解しており,判例も同旨であると理解されている。と述べています。

もっとも,ある行為が医行為であるか否かについては,個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がありますし,「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」とはどのような行為であるか問題となりえます。前掲大阪地裁平成29年判決は,医師免許を有しない入れ墨の施術業者である被告人が,業として,針を取り付けた施術用具を用いて皮膚に色素を注入する行為(いわゆる入れ墨)を行ったとして,医師法17条の罪に問われた事案で,被告人の行った行為が「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」すなわち医行為に該当すると判断しています。

前掲大阪地裁がかかる判断をした理由の全ては今回は割愛しますが,おおまかにいいますと,被告人の行っていた入れ墨行為は皮膚表面の各層のバリア機能を損ない真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため,細菌やウイルス等が侵入しやすくなり,皮膚障害等を引き起こす危険性を有していること,施術に使用される色素に重金属が含まれていた場合には,金属アレルギー反応が生じる可能性があるし,重金属類が含まれていなくとも,色素が人体にとって異物であることに変わりはないためアレルギー反応が生じる可能性があること,入れ墨の施術には出血を伴うため,被施術者が何らかの病原菌やウイルスを保有していた場合には,血液や体液の管理を確実に行わなければ施術者自身や他の被施術者に感染する危険性があること,などを理由に被告人の行っていた入れ墨行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることが明らかであると述べています。

なお,本判決は,裁判官や弁護士のような法律家であっても,具体的事案を考えるにあたっては,医療のような他分野における知識が必要となる場合があるということを再確認できる内容の判決でもあります。

興味を持たれた方は,是非一度判決の全文を見てみると良いかもしれません。

本日のブログは以上です。

 

弁護士を選ぶポイント

1 弁護士を選ぶ際に重視するポイント

弁護士を選ぶ際のポイントとしてまず大切なのは,相談者が相談したい内容を得意とする弁護士に相談・依頼をするということです。

弁護士の中でも得意分野は分かれているため,相談したい内容を得意としている弁護士を探す必要があります。

たとえば,交通事故を集中的に取り扱っており,交通事故に関する知識・ノウハウについては膨大な蓄積があるけれども,交通事故関連以外の法律にはあまり詳しくはないという弁護士もいます。

また,たとえば,相談者の方の債務に関するご依頼について得意としており,債務整理等に関する相談であれば他の弁護士よりも的確にスムーズに受けることができるけれども,債務整理等に関する相談以外の相談はあまり得意としていないという弁護士もいます。

そこで,弁護士に相談をする時には,自分の相談したい内容を得意としている弁護士を探し出して相談することが重要となってきます。

2 相談する弁護士を決める際のポイントはその他にも

次に弁護士を選ぶポイントとして大切なのは,料金です。

最近は,相談料無料と記載している弁護士事務所も多くなってきました。

どこまでの相談なら無料であるのか,いつまで無料で相談を聞いてくれるのか,このような細かい点は弁護士事務所によって異なる場合があるので,一度問い合わせてみて,納得した上で相談をするということも弁護士を決める際のポイントになると思います。

このほかに,弁護士を選ぶ際のポイントとしては,実際に相談・依頼をする弁護士の人柄という点も考えられます。

訴訟に強いと噂でも,高圧的な態度でしか接してこない弁護士には依頼をしたくないと思う相談者の方は比較的多いと思われます。

案件の内容によっては,長い期間弁護活動をしてもらうことになる相手ですので,人柄というのは弁護士を決める際の大切なポイントとなりうるのです。

他にも弁護士を選ぶポイントはたくさんあると思います。

ご自身にあった弁護士を探して,相談・依頼をすることをお勧めします。

相談する弁護士を選ぶ際には,ポータルサイトを利用することもポイントとなってくるでしょう。

最近では,弁護士を紹介しているポータルサイトを見かけることが多くなりました。

ご自身が交通事故の問題で困っているという場合には,ポータルサイトの中で交通事故を得意としている弁護士を探すということも相談内容にあった弁護士を選ぶ際のポイントの一つです。

初めての法律相談

1 初めての法律相談

法律に精通しているわけではない一般の方が,法律問題にお困りになられた際に頼りになるのが弁護士という存在です。

ただ,多くの方にとって,弁護士に相談をするということは日常的なことではないでしょう。

特に,初めて弁護士に法律問題を相談しようとするときには,いったい何を準備して,何を話せばいいのか分からないと悩んでしまう方もいるのではないでしょうか。

そこで,今回は初めての法律相談の際に確認しておくとよいことをご紹介します。

2 弁護士費用を確認する

まず確認しておくとよいことは,弁護士費用です。

弁護士費用は事務所や案件の内容によっても異なっており,相談料を無料としている場合もあれば,30分で5400円というような基準を作っている場合もあります。

あとで無用なトラブルになることを避けるため,自分の相談に費用がかかるのか否かは,相談をする前に確認をしておくことが良いでしょう。

3 関係資料がある場合には全て準備しておく

相談の際に,資料を持っていくということは重要なことです。

弁護士は,実際に相談者の方の経験を共有しているわけではありませんから,相談者の方の話と持ってこられた資料を見てアドバイスを行います。

あまり重要でないと思っていた資料も弁護士が見ることで問題解決の手がかりとなる可能性があります。

関係すると思われる資料は全て準備して持っていくのが良いでしょう。

4 事実関係を時系列でメモしておく

さきほども述べたように弁護士は相談者の方と経験を共有しているわけではありませんから,まずは相談者の方の話に耳を傾け事実関係を知ることが法律相談のスタートとなります。

この際に,相談者の方が経験した事実を時系列でお話いただくということは,お話をする相談者の方にとっても記憶を振り返りながら話すことができる,お話を聞く弁護士にとっても事実関係を把握しやすい,というメリットがあります。

ただ,実際の法律相談の際に,色々と思い出しながら事実関係を時系列で話すということはなかなか難しいものかもしれません。

そこで,事前に事実関係を時系列でメモしておき,法律相談の当日にこれを持って行って弁護士に話をするというのが良いかもしれません。

5 不利なことも隠さずに話す

誰しも自分にとって不利なことを積極的には話したくないでしょう。

そのようなつもりはなくても,無意識のうちに隠してしまうこともあると思います。

これは人間が自らを守りたいという防衛本能を持っている以上ある程度仕方のないことです。

ただ,事実を正確に把握して的確なアドバイスをもらうためには,自分にとって不利になるような事実であっても全て話すことが重要です。

6 法律問題にお困りの際は,弁護士へ相談を

初めて法律相談をしようとする時には,不安の方が大きいと思います。

その不安に寄り添うために弁護士という職業が存在しているのだと私は考えています。

法律問題でお困りの際には,是非弁護士にご相談ください。

本日のブログは以上になります。

弁護士への法律相談をお考えの方はこちら

労働者とは

1 労働者性
昨今,非正規労働者や裁量労働制といった言葉を耳にすることが多くなり,労働というものに対して法的な関心を持ち始めた人もいるのではないかと思います。
そこで今回のブログでは,労働の中核をなす,「労働者」について記載します。
労働基準法によると,労働者とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者のことをいいます。
ここで,「使用され」とは指揮命令下の労務の提供を意味すると解されており,また「賃金」については,労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものと定義されています。
労働基準法による労働者に該当する場合には,労働基準法の付属法である最低賃金法や労働安全衛生法,労働者災害補償保険法などが適用されることとなります。
労働者に該当すると,最低賃金が保障され,また,労災の適用を受けることなどができるのです。
2 労働者に該当するか
一般的に企業で働いている人の多くは,労働者に該当すると言えるでしょう。
ただし,中には労働者に該当するのか否かが微妙な場合があります。
たとえば,企業経営にあたる者は労働者に該当するでしょうか。
企業経営にあたる者の典型例としては,株式会社における取締役が考えられます。
取締役の中でも,代表権を有しているか,会社内部の意思決定のみならず業務執行を担当しているか等さまざまな違いはありますが,株式会社の経営にあたる者として,諸種の義務と責任を法定されています。
このような取締役は,会社に使用されてその報酬を支払われる者とは異なる地位と責任を法律上定められており,労働者には該当しないと考えられるでしょう。
3 専門的裁量的労務供給者
医師や弁護士,一級建築士など高度の専門的能力,資格を持つ者がもっぱら特定事業主のためにその事業組織に組み込まれて,職務の内容や質量において使用者の基本的な指揮命令のもとにあって労務を提供し報酬を得ているという関係にあれば,このような専門家とされる者であっても労働者といえるでしょう。
医師国家試験に合格した後,大学病院で臨床研修に従事する研修医について,病院のための労務の提供の側面を有しており,病院が定める日時・場所で指導医の指示に従って医療行為に従事し,奨学金等としてその対価を受けていた以上,最低賃金を支払われるべき労働者に該当すると判断した最高裁判決も存在しています(関西医科大学事件)。
労働者という概念に興味を持っていただけたでしょうか。
本日のブログは以上になります。

景品表示法②

景品表示法の制定

前回ブログで景品表示法制定前の広告規制や景品表示法という特別法が必要と有力に唱えられるようになった背景などをご紹介しました。

このような流れの中,昭和37年,いよいよ景品表示法が制定されたのです。

景品表示法では,これまで独占禁止法によって規制されてきた過大な景品類の提供や,虚偽・誇大な広告表示を規制していますが,規制の目的として消費者の保護の観点を重視しているところが従来の独占禁止法による規制とは異なるところと言えるでしょう。

独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することを目的としており,これを阻害するような不当な景品類の提供,不当な広告表示を規制しています。

これに対して,景品表示法では,「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため,一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより,一般消費者の利益を保護することを目的とする」(景品表示法第1条)として,一般消費者の利益保護を重視しています。

平成21年には,消費者庁が設置され,景品表示法の所管庁となり,一般消費者の利益保護を重視する流れは今日にも続いています。

景品類や表示については,名古屋に住んでおられる一般消費者の方にとっても遠い存在ではなく,景品や広告を見る際にはこのような法律があることを意識してみてはいかがでしょうか。

本日のブログは以上になります。

景品表示法①

景品表示法制定以前の広告規制

昨今,広告に対する規制が厳しくなってきており,広告規制に関する弁護士への問合せも増えています。

広告に関する規制法として有名なのが,不当景品類及び不当表示防止法(一般に景品表示法,景表法などと呼ばれています)です。

景品表示法の制定前の昭和20年代後半から,日本経済は自由協商を基調とする事業者間の販売競争が激しくなり,業種によっては,販売品に景品等を付けることで,販売拡大を行おうとする傾向が強くなってきました。

この時代の,不当な景品の提供や不当な広告・表示による顧客誘引行動については,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(一般的に独占禁止法,独禁法などと呼ばれています)によって不公正な競争方法として規制の対象とされていました。

景品表示法制定の背景

ところが,昭和30年代に入り,技術革新による大量生産体制が進展すると販売競争の激化に伴って虚偽・誇大な広告等が横行するようになり,そのような虚偽・誇大な広告等から一般消費者を保護するという新しい観点からの特別法の制定が望まれるようになりました。

昭和35年に発生した「ニセ牛缶事件」(一般に市販されている牛肉の大和煮等と表示されている缶詰の大部分に馬肉や鯨肉が混入されており,牛肉を100パーセント使用している企業はわずかであったことが判明した事件)をきっかけに虚偽・誇大な広告等から消費者を保護しようとする観点は,さらに有力に唱えられるようになったのです。

次回も景表法についてお話させていただきます。

本日のブログは以上です。

GDPRについて②

こんばんは,弁護士の井川です。

今回は,前回のブログに続いて,GDPRについてお話したいと思います。

GDPRの特徴として,巨額な制裁金があること,広範な域外適用があり域内に拠点を置いていない場合でもリスクがあることを前回お話しました。

今回は,具体的にどのような場合に適用の可能性があるのかご説明します。

まず,GDPRでは,①EU域内に所在するデータ主体に対する商品又は役務の提供,または,②EU域内で行われるデータ主体の行動のモニタリング,のいずれかに関連する個人データの処理についてGDPRの規律を適用しています。

ここで,分かりにくいのが②EU域内で行われるデータ主体の行動のモニタリングというものです。

いったいどのようにモニタリングが行われるのでしょうか。

まずは,皆さんの日常を思い出してください。

たとえば,旅行関連のページを最近訪れたことがあったり,航空会社の広告をクリックしたことがある場合,他の場面でも旅行というジャンルに近い広告を多く目にすることがないでしょうか。

このような広告の仕方は,行動ターゲティング広告と呼ばれるもので,広告の対象となる顧客の行動履歴をもとに,顧客の興味関心を推測し,ターゲットを絞って広告配信を行う手法とされています。

そして,行動ターゲティングの手法を用いて広告活動を行っている場合は,データ主体の行動のモニタリングの典型例であるとして,当該データ処理に関してGDPRが適用されると考えられています。

行動ターゲティング広告を行う際には,クッキー等による情報収集・処理が伴うため,このクッキー等による情報収集・処理についてユーザーの事前の同意を得ることを求める意見が出されています。

近い将来,ネット閲覧時に,多くの企業でクッキーの使用を許可するか否かを問うクッキーバナーが出てくることが予想されます。

企業としては,GDPRによる巨額の制裁金を免れるために必要な対策といえますが,一般ユーザーからすると少し煩わしいと感じるかもしれませんね。

まだ施行されたばかりの規則であり,解説も多くはない分野ですが,今後注目されるべき規則であると言えるでしょう。

今回のブログは以上です。

今後もよろしくお願いいたします。

GDPRについて①

こんばんは,弁護士の井川です。

2018年5月25日からGDPRの適用が開始されました。

対応に追われている企業も多いのではないでしょうか。

今回は,一般の方にとってあまり馴染みのないであろうGDPRについてお話をしたいと思います。

まず,GDPRとは,General Data Protection Regulationの略で,日本語訳としては一般データ保護規則と言われています。

このGDPRは,EU加盟国を含む欧州経済領域(EEA)31か国が,域内所在の個人の人権を保護するために設けた規則ですが,世界中の事業者が様々な場面でGDPR由来のリスクにさらされる可能性があるため,多くの世界企業にとって他人事ではない問題をはらんでいます。

GDPRの特徴は,①個人データ保護に重きを置いており,非常に厳格なルールを定めていること②違反者に対しては巨額の制裁金が課せられることが予定されていること③広範な域外適用ルールを備えていることです。

①個人データ保護に重きを置き,非常に厳格なルールを定めていることとの関係では,たとえば,個人データの範囲に関して,オンライン識別子が個人データに含まれることが条文上明確に定められています。

また,②違反者に対しての巨額の制裁金に関しては,最大で,2000万ユーロ,又は,事業者である場合は,前会計年度の全世界売上高の4パーセントのいずれか高額の方の金額が課されることが予定されており,制裁金としては非常に巨額なものとなっています。

さらに,③広範な域外適用ルールを備えているということに関して,ⅰEU域内に所在するデータ主体に対する商品又は役務の提供(有償・無償を問わない)または,ⅱEU域内で行われるデータ主体の行動のモニタリングのいずれかに関連する個人データの処理をする場合には,域内に拠点を有しない管理者・処理者であっても,GDPRの規律を適用することが定められています。

したがって,EU域内に拠点を置いていない日本企業でも,GDPRの規律の適用を受ける可能性があるため,域内に拠点を置いている企業はもちろん,そうでない企業であっても,巨額の制裁金のリスクにさらされることになるのです。

このようなGDPRについて次回もお話したいと思います。

今回のブログは以上です。

スペシャリスト・ジェネラリスト

こんばんは。

弁護士の井川卓磨です。

 

突然ですが,弁護士にとってスペシャリストを目指すかジェネラリストを目指すかということは一つの分水嶺と言っても過言ではありません。

スペシャリストとは,特定分野について深い知識やノウハウを持っている人をいいます。

また,ジェネラリストとは,広範囲にわたる知識・ノウハウを持つ人のことをいいます。

法分野はさまざまであるため,全ての分野についての深い知識を取得し,ノウハウを習得するということは非常に困難なことです。

ある特定の分野でスペシャリストを目指すには,やはり当該特定分野に関する案件を数多くこなすことが必要です。

また,ジェネラリストを目指すには,特定の分野にこだわらず広い分野の案件をこなすことが必要です。

この2つを両立させることができれば1番良いのですが,先に述べたとおり,非常に困難なものです。

スペシャリスト,ジェネラリストどちらもそれぞれ優れた面もある一方で劣る面もあるのは事実であり,このどちらを目指すのかで悩む弁護士も多くいることでしょう。

ただ,いずれを目指すにしても,1番に大切なことは目の前で自分を頼ってくれる依頼者のために全力を尽くすことであり,その案件に全力で対応していれば自然と弁護士としての力量もあがってくるものです。

弁護士に依頼するという日常生活ではあまり起こり得ない状況の中,結果が大切なことはもちろんですが,依頼をした弁護士がどのくらい真剣に自分の案件に取り組んでくれているのか見ている依頼者は非常に多いことでしょう。

私がもし依頼者となる時には,全く親身でない弁護士に相談するよりも,悩みに寄り添ってくれる弁護士に相談したいと思うものです。

私は,私を頼ってくれる依頼者が私に依頼をしてよかったと心から思ってもらえるような弁護活動をこれからも続けていきたいと考えています。

 

本日のブログは以上です。

今後もよろしくお願いします。

 

診療報酬の改定について

こんにちは。

弁護士の井川卓磨です。

 

5月も終わりに差し掛かり,日中はずいぶん暑くなってきました。

季節の変わり目には体調を崩される方も多くいらっしゃいます。

名古屋では麻疹も流行しているということで,出かけるときはマスクをつけた方が良さそうですね。

 

体調を崩した際,病院に行って医師に診てもらうことがあると思います。

この時,診療の点数に応じて病院にお金が入る仕組みとなっています。

この診療の点数,いわゆる診療報酬というものは2年に1度厚生労働省によって改定されています。

一般の方がこの診療報酬を普段の生活であまり意識することはありませんが,医師や薬剤師などの医療従事者の間では,勉強会が開催されることもあるなど,注目される改定となっています。

 

今回は,一般にはあまり馴染みがありませんが,医療従事者にとっては注目されている診療報酬の改定について少しお話したいと思います。

平成30年の診療報酬の改定では,入退院支援の推進が行われるようになりました。

これは,住み慣れた地域で継続して生活できるよう,患者の状態に応じた支援体制や地域との連携,外来部門と入院部門との連携等を促進する観点から定められたものです。

これによって,入院を予定している患者が入院生活や入院後にどのような治療過程を経るのかをイメージでき,安心して入院医療を受けられるようになります。

この他にも,かかりつけ歯科医やかかりつけ薬剤師の機能の評価の見直しなど,地域連携の観点からの改定がされています。

 

2年に1度改定される診療報酬について常に網羅的に把握していくことは非常に困難です。

しかし,診療報酬の改定は,病院のお金事情に直結するものでもありますので,現実の医療に与える影響は大きいものとも思われます。

医療に従事する者や法律家だけでなく,一般の方にとっても興味をもって触れていただきたい分野であると私は思っています。

 

本日のブログは以上です。

今後もよろしくお願いします。