医師法17条②

前回のブログの続きです。医師法17条についての高等裁判所の判断を紹介しています。

「医行為」に関する最高裁の判例(最高裁昭和30年5月24日第3小法廷判決(刑集9巻7号1093頁),同昭和48年9月27日第1小法廷決定(刑集27巻8号1403頁),同平成9年9月30日第1小法廷決定(刑集51巻8号671頁))について,弁護人が,これらの判例によれば,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防を目的」とすることが求められていると主張するのに対し,原判決は,上記各判例の事案は,いずれも被告人が疾病の治療ないし予防の目的で行った行為の医行為性が問題となったもので,医行為の要件として上記目的が必要か否かは争点となっておらず,上記各判例はこの点についての判断を示したものではないから,本件において,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防の目的」が不要であると解しても,最高裁の判例に反しない旨説示している。
ウ 次いで,原判決は,本件行為の医行為該当性について,被告人が行った施術方法は,タトゥーマシンと呼ばれる施術用具を用い,先端に色素を付けた針を連続的に多数回皮膚内の真皮部分まで突き刺すことで,色素を真皮内に注入し定着させるといういわゆる入れ墨を施すことであり,このような入れ墨は,必然的に皮膚表面の角層のバリア機能を損ない,真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため,細菌やウイルス等が侵入しやすくなり,また,被施術者が様々な皮膚障害等を引き起こす危険性を有しているとして,本件行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることは明らかであると判断した上,入れ墨の施術に当たり,その危険性を十分に理解し,適切な判断や対応を行うためには,医学的知識及び技能が必要不可欠である,よって,本件行為は,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であるから,「医行為」に当たるというべきであるとの判断を示している。
そして,〔1〕入れ墨の施術によって障害が生じた場合に医師が治療を行えば足り,入れ墨の施術そのものを医師が行う必要はない,〔2〕被告人が使用していた色素の安全性に問題はなく,入れ墨の施術の際には施術用具や施術場所の衛生管理に努めていたから,本件行為によって保健衛生上の危害が生ずる危険性はなかった,という弁護人の主張に対し,原判決は,入れ墨の施術に伴う危険性や,施術者に求められる医学的知識及び技能の内容に照らせば,上記〔1〕の主張は採用できないし,医師法17条が防止しようとする保健衛生上の危害は抽象的危険で足りることから,弁護人が上記〔2〕で主張する事情は前記判断を左右しないとして,弁護人の主張を排斥している。

このように原審は,医業の意義について,弁護士が主張する医療関連性を不要とし,医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為で足りると判断しています。
高等裁判所では,この原審の判断が争われ,覆されたのです。
高等裁判所の詳しい判示内容は次回紹介します。